失った声を、もう一度。名古屋大学「Save the Voice」プロジェクトとコエノコ
手術で声を失う前に、いまの声を残すという選択

喉頭がんなどの治療で喉頭を摘出すると、これまで使ってきた自分の声は失われます。けれど手術の前なら——いまの声を残しておくことができます。
「失った声を、もう一度」。その実現を目指すのが、名古屋大学が AMED 事業として取り組む「Save the Voice」プロジェクトです。このページでは、プロジェクトの背景と、そこから生まれたサービス「コエノコ」を解説します。
声を失うとはどういうことか
喉頭摘出と「自分の声」の喪失
喉頭は、声を出すための器官です。喉頭がんなどの治療で喉頭を摘出する「喉頭摘出術」を受けると、声帯を使ったこれまでの発声はできなくなります。
術後は、食道発声・電気式人工喉頭・シャント発声といった「代用発声」で会話を取り戻していきます。ただし、いずれの方法でも手術前と同じ「自分の声」がそのまま戻るわけではありません。
だからこそ、「自分の声そのもの」を残せるのは手術を受ける前の限られた時間だけ——この事実が、Save the Voice プロジェクトの出発点になっています。
名古屋大学「Save the Voice」プロジェクトとは
手術前に声を保存し、術後に取り戻す
Save the Voice は、名古屋大学大学院医学系研究科 頭頸部・感覚器外科学講座 耳鼻咽喉科学が、日本医療研究開発機構(AMED)の事業として取り組む「喉頭摘出者の音声再生プロジェクト」です。
目標は明確です。手術で音声を失ってしまう前に音声を保存し、手術後は代替発声による音声と音声変換技術を用いて、自分の音声を取り戻すこと。
対象は、頭頸部がんなどで喉頭摘出が必要な方のほか、のどの腫瘍、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患で発話が難しくなる方にも広がっています。
「手術で音声を失ってしまう前に音声を保存して、手術後に代替発声による音声と音声変換技術を用いて、自分の音声を取り戻すこと」(名古屋大学「Save the Voice」プロジェクト)
なぜ始まったのか — 西尾医師の想い
一人の外科医が抱いた「声を残す」という発想
プロジェクトの発端は、コロナ禍のある日曜日でした。頭頸部がんの手術を手がける外科医・西尾直樹医師が、テレビで ALS 患者に音声変換技術が応用されている番組を目にしたことがきっかけだったといいます。
喉頭摘出術は重要な治療である一方、手術の後にはその人の声が失われてしまう。手術の前に声を保存しておけば、いつかそのデータを活かせる——西尾医師はそう考えました。
一方で、現場の難しさも見ていました。がんと診断された患者さんは、手術前はまず自分の命のことを考えるため、声を保存する余裕がないのが実情です。だからこそ「手術前に、自分の声をスマートデバイスなどに保存する」仕組みが必要だと考えました。
この問題意識から、音声変換の基礎研究に取り組む研究者らと打ち合わせを重ね、Save the Voice プロジェクトが動き出しました。
「がんの患者さんは手術の前には、自分の命のことを考えるため、声の保存など考える余裕がありません。だからこそ、手術前に自分の声を残す仕組みが、将来必ず患者さんにとって大事になる」(西尾直樹医師・要旨)
多くの人に支えられたプロジェクト
クラウドファンディングで集まった共感
Save the Voice は、研究者だけでなく多くの人の支えで前に進んできました。2025 年に実施されたクラウドファンディングでは、目標 300 万円に対して 148 人から 419 万円を超える支援が集まり、目標を達成しています。
このプロジェクトには、音声変換技術の研究者に加え、喉頭摘出の当事者団体や当事者の方々も協力しています。声を失う経験をした人たちの声が、技術の方向性を形づくっています。
こうした取り組みは報道でも取り上げられ、CBC(中部日本放送)の長編ドキュメンタリーとして放送されました。プロジェクトの背景や、声を失った方とご家族の歩みが記録されています。
- 目標 300 万円に対し、419.8 万円・148 人の支援で達成(2025 年)
- 名古屋大学の耳鼻咽喉科 × 音声変換技術の研究者による医工連携
- 喉頭摘出の当事者・当事者団体も開発に協力
「声を残す」技術のしくみ
保存 → 代用発声 → 音声変換
仕組みは大きく三つの段階に分かれます。まず、手術前に専用のアプリなどを通じて、いまの声を音声データとして保存します。
次に、術後は食道発声や電気式人工喉頭といった代用発声で発話します。そして、その代用発声の音声に、保存しておいた本人の声をもとにした音声変換技術を適用することで、より「その人らしい声」に近づけて再生します。
ポイントは、最初の「保存」が手術前にしかできないこと。ここを逃すと、本人の声を素材にした再生は難しくなります。
いまの声を残すなら、コエノコ
研究の知見から生まれた、いま使えるサービス
「自分の声を残したい」と考えたとき、いま実際に利用できるのがサービス「コエノコ」です。
コエノコは、名古屋大学医学部附属病院の喉頭がん治療の知見と、音声 AI 技術をもつ TARVO 株式会社が連携して提供しています。Save the Voice の研究で培われた「手術前に声を保存し、未来へ残す」という考え方を、誰もが使える形にしました。
手術前の限られた時間でも、スマホやオンラインでいまの声を録音し、AI 音声として残すことができます。紹介状や来院の手続きは必要なく、まずはお気軽にご相談いただけます。
大切なのは、自分の声を残せるのは手術の前だけということ。少しでも気になったら、できるだけ早めにご相談ください。
よくある質問
- コエノコの利用に費用はかかりますか?
- 費用を含む詳しい条件は、お問い合わせ時に個別にご案内しています。まずはお気軽にご相談ください。
- 誰でも声を残せますか?
- 喉頭摘出を控えている方を中心に、声を失う可能性のある方を対象としています。状況によって最適な進め方が異なるため、個別にご相談いただくのが確実です。
- 手術が終わってからでも間に合いますか?
- 本人の声を素材にした音声をつくるには、手術前に声を保存しておくことが重要です。手術前のご相談を強くおすすめします。術後のご相談についても、できることをご案内します。
- 愛知県・名古屋で喉頭がんの相談先を探しています。
- 喉頭がんの治療やセカンドオピニオンについては、名古屋大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科をはじめとする専門医療機関にご相談ください。「声を残す」ことに関心がある場合は、コエノコへのご相談も承ります。
出典・参考
手術前の声を残すことについて、相談してみませんか?
