シャント発声とは?ボイスプロテーゼ(プロヴォックス)の仕組み・手術・費用・交換をやさしく解説
肺の空気で話せる代用発声と、始める前に知っておきたい通院・メンテナンスの実際

シャント発声は、喉頭摘出で声を失ったあとに「肺の空気」で話せるようになる代用発声です。気管と食道の間に小さな通り道(シャント)を作り、ボイスプロテーゼという器具を入れることで、吐く息を使って声を出します。
食道発声・電気式人工喉頭と並ぶ選択肢のひとつですが、日本では対応している病院がまだ限られ、情報も多くありません。しかも見落とされがちなのは、手術そのものより「始めたあと」——数か月ごとの器具交換と通院が、この発声法とセットだということです。
シャント発声のしくみ
喉頭摘出後は、呼吸の通り道(気管)と食べ物の通り道(食道)が完全に分かれます。シャント発声では、この2つの間に手術で小さな通り道を作り、そこに「ボイスプロテーゼ」と呼ばれる一方向弁つきの小さな器具を留め置きます。代表的な製品名から「プロヴォックス」と呼ばれることも多い方法です。
話すときは、気管孔を指などでふさいで、吐く息をプロテーゼ経由で食道へ送り込みます。すると食道入口部の粘膜が震えて、それが声のもとになります。弁は一方向にしか開かないため、食べ物や飲み物が気管へ流れ込むのを防ぐ設計です。
人工鼻(HME)を装着している場合は、発声時にその部分を指で押さえます。手を使わずに話せる専用の呼気弁「フリーハンズフレキシボイス」も保険収載されています。人工鼻そのものについては別記事で詳しく解説しています。
どんな声が出るのか
シャント発声の最大の特徴は、肺からの空気を使えることです。食道発声が飲み込んだ空気を少しずつ使うのに対し、シャント発声は呼吸と同じ空気の流れで話せるため、声量と一息で話せる長さに余裕が生まれます。
発声のもとは自分の粘膜の振動。電気式人工喉頭のような機械音ではなく、しわがれた肉声に近い声です。習得も比較的早いとされ、手術後まもなく声が出る方もいます。実際の声は、別記事「代用発声を動画で聞き比べ」で確認できます。
手術と費用 — 喉頭摘出と同時にも、後からでもできる
シャントを作る手術には、喉頭摘出と同時に行う方法(一次造設)と、喉頭摘出後にあらためて行う方法(二次造設)があります。すでに食道発声や電気式人工喉頭で生活している方が、後からシャント発声を選ぶことも可能です。
患者会の取材記事によると、手術は健康保険で受けられ、二次造設の例では3割負担で入院費込み13万円前後、高額療養費制度でさらに抑えられたケースが紹介されています。金額は治療内容と負担割合で変わるため、目安として捉え、具体的には病院にご確認ください。
始めたあとの実際 — 数か月ごとの交換と定期通院が前提
ボイスプロテーゼは消耗品です。飲み物がわずかに漏れる、声が出しにくくなるといったサインが出たら交換時期で、患者会の取材記事では約3か月ごとに医療機関で交換し、保険適用で1回1万2千円ほどという例が紹介されています。
日本で主に使われている留置型のプロテーゼは、医療機関で交換を受けます。つまりシャント発声は「手術をして終わり」ではなく、定期的に通える病院とセットで続ける発声法です。通院のしやすさも、選ぶときの大切な判断材料になります。
知っておきたいトラブルもあります。プロテーゼ周囲からの飲み物の漏れが進む、器具が抜け落ちる、周囲に肉芽ができるといった場合は、医療機関での対応が必要です。また、放射線治療の影響などで適応が難しいと判断されることもあります。だからこそ最初の一歩は、主治医に「シャント発声は自分に合うか」を相談するところからです。
対応病院の探し方
欧米で広く使われている一方、日本ではシャント発声に対応する施設がまだ限られており、患者会が普及と公的援助の拡大を求める活動を続けています。当事者の公開ブログや動画にも、かかっていた病院がシャント発声を扱っておらず対応病院を自力で探した、発声法や手帳の大事な情報は医療者ではなく患者会やブログから得た、という趣旨の発信が複数あります。対応施設が限られるぶん、身近な病院では選択肢として挙がらないこともあるのです。
探し方の起点は3つあります。第一に、主治医への相談。「シャント発声(気管食道シャント)に対応している病院を紹介してほしい」と具体的に伝えます。第二に、患者会。銀鈴会をはじめとする各地の喉摘者団体は、発声教室や相談の場を設けています。第三に、病院のピアサポート。たとえばがん研有明病院には、シャント発声の利用者どうしが情報交換する「プロヴォックス(シャント発声)の会」があります。
どの発声法を選んでも、「自分の声」という選択肢を
シャント発声で取り戻せるのは「話せること」であって、手術前のあなたの声そのものではありません。しわがれた肉声に近いとはいえ、声帯が生んでいたあの声は戻らないのです。
だからこそ、どの発声法を選ぶ場合でも、手術の前に「いまの声を残す」ことを一度考えてみてください。録音した声からは、AI音声合成で「自分の声」を使い続ける道が残せます。コエノコは、手術前の声の収録から合成音声の作成までをサポートしています。
よくある質問
- 飲み物が漏れるようになったら、すぐ受診すべきですか?
- 放置しないでください。漏れはプロテーゼの交換時期の代表的なサインで、進むと誤嚥につながるおそれがあります。次の定期交換を待たず、交換を受けている医療機関に連絡してください。
- 気管孔を指でふさぐ動作が難しい場合はどうすればよいですか?
- 手を使わずに話せる専用の呼気弁「フリーハンズフレキシボイス」が保険収載されています。使えるかどうかは体の状態によるため、主治医や言語聴覚士にご相談ください。
- 食道発声や電気式人工喉頭からシャント発声に変えられますか?
- 可能です。喉頭摘出の後からシャントを作る「二次造設」という方法があります。適応の判断が必要なので、まずは主治医にご相談ください。
- 対応している病院が近くにない場合は?
- まず主治医に「シャント発声に対応している病院を紹介してほしい」と具体的に伝えてください。プロテーゼは数か月ごとの交換が続くため、通いやすさまで含めて、紹介先や患者会に相談しながら決めるのが現実的です。
出典・参考
関連記事
手術前の声を残すことについて、相談してみませんか?
